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採用ブランドが優れている企業はあるのか?
まずはGoogleなどが思い浮かびますが、日本において、この領域が勝因で成長したといえるのはミスミではないでしょうか。もちろん卓越した戦略とその実行が成長の要諦ではありますが、それを支えたのは『採用』ブランドの強さです。
ミスミは、「経営者人材の成長機会がある」というイメージを着実に確立してきました。2002年に社長に就任した三枝匡氏は、かねてから「経営者人材の育成が最優先」だと明言しており、戦略論と経営現場での実体験の両面について、知識と経験を積めるように支援し続けてきました。それゆえ、「ミスミで働けば、経営者としての能力を伸ばせる」というイメージが転職市場で確立されていったのです。
そもそもブランドって何?
アメリカ・マーケティング協会によると、ブランドは以下のように定義されています。
個別の売り手もしくは売り手集団の財やサービスを識別させ、競合他社の財やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもののこと。
ここで注意しておきたいのは、「区別する」のは、お客様だけでなく、現在、その会社で働いている社員も含まれるということです。「ブランド」の解釈についてはいろいろな考え方があるとは思いますが、特に”採用”ブランドについて考える場合は、自他ともに認める、他社と区別できる自社の「らしさ」をブランドとして考えておいた方が良いでしょう。
採用ブランドとは何か?
では、自他ともに認める、他社と区別できる「らしさ」という点で考えてみると、どうなるでしょうか? それは、求職者だけでなく現社員も含め、『この会社で働くと「○○○○○」だから、他社とは違い魅力を感じる』と言う場合、「○○○○○」に当てはまる言葉が本質的な価値になります。例えば、前述のミスミでいうと、「経営者としての能力を伸ばせる」になります。
あなたの企業で考えたとき、「○○○○○」にはどんな言葉が入りますか? このイメージが、求職者はおろか、社員でもバラバラなのであれば、ブランドとして確立されていないということになりますし、求職者や現社員を含めて共通のイメージなのであれば、それが『採用』ブランドになります。
『採用』ブランドなので、現社員は関係なく求職者にどういうイメージを持ってもらうかだけ考えればよいのではないか?という疑問を感じるかもしれません。その答えはNOです。なぜなら、現社員が思っている、この会社で働くことの「らしさ」と『採用』ブランドとして打ち出していく「らしさ」にギャップがあると、ミスマッチが生まれてしまうからです。
実態がないのにも関わらず、企業として優秀な人材の気を惹こうとして、耳ざわりの良い言葉を並べてしまっては、入社してみてから、「思っていた会社と違う」ということになります。入社前に抱いていた期待と、入社後に得られる満足感にギャップを生まない効果も発揮するのです。
採用ブランドを作る2つのステップ
第一歩は、自分たちが何者なのかを改めて見つめなおすことです。『採用』ブランドというと、「どんな人材がほしいか」「採用市場に自分たちをどう売り込むか」というような、手法論に着目してしまいがちです。しかし、「自分たちが何者なのか」という定義を自分たち自身で把握していなければ、市場に企業の魅力を正しく伝えることはできません。ですから、まずは自社の魅力を洗い出してみたり、採用競合と比較してどこが優っているのか、劣っているのかを冷静に分析することから始めることから始めましょう。
第二歩は、自社の『採用』ブランドを、全社員で体現できるようにすることです。つまり、「採用」という瞬間ではなく、「その企業に入るとどんな人材になれるのか」「どんな成長を遂げることができるのか」が重要な観点になります。現社員で実現されていないようなことは、『採用』ブランドとして打ち出していくことはできません。自分たちが何者か、どこに向かい、自分たちがどうありたいのかを全員が分かっている組織は、当然に『採用』ブランドも強くなります。
つまり、『採用』ブランドを作り上げていくためには、「自社の魅力を再定義する」「社員全員でその定義を体現する」というインナー活動が非常に重要なステップになります。市場における認知を広げる、ソーシャルメディアを使うといった手法論から始めないように注意しましょう。
採用ブランドを高めるメリットは?
『採用』ブランド力を高めることで生まれるメリットは、大きく2つになります。まずは、母数を確保するために必要以上の投資をしなくても、自社にマッチした人材が、求職者の方から応募してくる、そして採用競合に負けない、というメリットが生まれます。これはイメージしやすいメリットだと思います。
そして2つめは、企業価値が向上するという点です。企業という法人は、個人の集まりによって形成されています。前述のように、現社員で『採用』ブランドの実態が作れていれば、あなたの企業で働く一人ひとりが成長し、その企業で働くことに自己肯定感を得ていることになります。その企業で働くことに幸せを感じる社員が増える=確固たる『採用』ブランドを確立できる、ということです。
ビジネスモデルは、採用ブランドの切り口になる
そうは言っても、「どうすればいいのかわからない」と感じてしまうと思います。その場合は、まず自社のビジネスモデルを見つめなおしてみるのはいかがでしょうか?冒頭のミスミの事例で言うと、三枝氏が同社の社長を引き受けたのは、ミスミが「商売のサイクル」を内包する事業が複数ある企業であり、小さな組織に分けて、経営経験を積ませることができるから、というビジネスモデルにもとづく理由があったそうです。
経営者人材を育成するためには、戦略などの理論だけではなく、経営現場での実践経験の両輪が重要です。ミスミの『採用』ブランドは、その両側面を複数の事業をポートフォリオとして持っているからこそ、確立されたとものだと考えることができます。
細かい経営現場を作れるミスミのようなビジネスモデルの場合は、経営者が育つという『採用』ブランドを作りやすいかもしれませんし、一方で、ユニクロやクックパッドのように1つ骨太なビジネスがあるタイプならば、社会的な意義、影響力の大きい仕事に従事できるという『採用』ブランドになるかもしれません。その切り口に迷った場合は、ぜひ自社のビジネスモデルから考えてみてはいかがでしょうか。
企業の魅力を整理するためフレームワーク
「ブランド」はイメージ、「ブランディング」はイメージアップのために行う何らかの施策。そう理解しているかもしれませんが、ブランディングとは、「らしさ」を作り出すこと、と解釈した方が良いと考えています。「誰もが知っている大企業」=「採用のブランド力が高い」という認識があるかもしれませんが、決してそうではありません。確かに認知度の高い企業は、採用では有利ですが、表層的な認知ではなく、自社の「らしさ」をウソ偽り無く、正々堂々とありのままの知ってもらうことで、高めることができますから。
採用活動に長く携わってきた私たちが、『採用』ブランド」に優れていると感じた企業を6つにカテゴライズしてみました。どれか1つだけに優れているのではなく、重なり合う部分はありますが、企業の魅力を整理するフレームワークとして、お使いください。
仕事の魅力 | 一人ひとりが、やりたい仕事をできている状態や自分の仕事にやりがいを感じている。 |
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ビジョンの魅力 | 経営戦略や企業理念が優れており、企業の成長と自分の成長がリンクしている状態。 |
固有の技術 | 自社ならではユニークな技術やサービスがあり、専門的なスキルや知識が身につけられる。 |
社会的貢献性 | 世の中に与える影響が大きく、組織の一員であること自体が自己肯定感に直結する。 |
職場の環境 | 給与・福利厚生などの待遇が良く、自分に合った働き方ができる。 |
仲間の魅力 | 一緒に働く人たち、経営者が、非常に魅力的である。 |
近年、ダイレクトリクルーティングやインバウンドリクルーティングという言葉が生まれていることからも、採用という側面から見たブランド力を高めていくことは、今後もさらに重要性を増していくことでしょう。一朝一夕で確立されるものではありませんので、採用競合に後れを取らないためにも早めに検討されてみてはいかがでしょうか。